ほとんどパラダイス
「なんや、かず坊!夕べはお楽しみやったんちゃうんかいな!」
「おかあさん!」
上総さんが頬をあからめて抗議してる。
「あんたにしては、えらい気張った注文しはるし、朝っぱらからちょっと見ぃひん綺麗なお嬢さん連れて来はるから、てっきりそうやと思いましたわ。ま~ま~。お嬢さん、よぉ、おこしやす。どうぞ~。」
いきなり、おかあさんの態度がガラッと変わった。
……つまり、なんだ……上総さんの遊び相手か彼女か……そういう女性には、冷たいんだ。
歳はお召しだけど、もしかして本当のお母さんなのか、少なくとも、近しい存在なのだろう。
それにしても……上総さん……相当、遊んでらしたんじゃないかしら……
祇園で生まれ育った歌舞伎役者だったら、当たり前かもしれないけど。
私とは別世界のヒトなんだな、とハッキリ実感した。
「へえええ。ほなぁ、学美さんと仰るんですかぁ。学生さん。そうどすかぁ。……西田の柴漬けも食べますか?」
「もう、いいて。これ、村上重やろ?いくら美味しくっても柴漬けばっかり要らんて。」
「……ありがとうございます。」
別世界のはずが、おかあさんは、何だか私を気に入ってくださった……気がする。
素敵なお庭の見えるお座敷に案内してくださったのだけど、おかあさんは、ずっと戸口の内側でニコニコと話しかけて来る。
次第に上総さんは目に見えて困り始めて
「おかあさん、そろそろ、2人にしてくれへん?本腰入れて、彼女を口説きたいねんけど。」
とうとうそんな風に言い出した。
何てことゆーんだ!
思わず上総さんを睨んだ。
「……せやかて、かず坊……学美さんがまた来てくれはるかわからへんのどすから、もうちょっとしゃべらせてぇ?ねえ?」
私は苦笑してうなずいた。
「確かに、こちらは、学生には敷居が高いですね。」
「俺と来ればいいやん。」
こともなげに上総さんは言った。
私はため息をつき、おかあさんは舌打ちした。
それをあてにできないんだってば。
次があるのかないのかすらわからない不確かなご縁なのに。
女2人の不信感がヒシヒシと伝わるらしく、上総さんは不満そうに言った。
「何なん?何で?俺ちゃうやん。俺は誘ってるのに、学美がその気にならへんから……」
「昨日の今日でそんな気ぃなるか!しかも、次、12月って!阿呆ちゃうか。」
思わず本音がこぼれた。
一瞬、おかあさんの眉毛がピクッと動いたけど、目を閉じて黙って控えてらした。
「……まあ、タイミング悪いか、確かに。でも、どうしても歌舞伎は圧倒的に東京での公演ばっかりやしなあ。……じゃあ、学美、東京に観に来たら?」
何言ってるんだろう、このヒト。
マジマジと見つめる。
「何で?」
上総さんは情けない声をあげた。
「何でって!え~?逢いたいやん?逢いたくないん?」
ぷっと、おかあさんが笑った。
おかあさんをちょっと睨んでから、上総さんは私に言った。
「でも、俺、舞台あるし。端役やけど。学美おいでよ。」
「無理。お金ない。私、普段、バイトしてへんし。習い事にお金かかるし。」
つーんと、そう言い放つと、おかあさんが口を挟んだ。
「習い事は、お茶どすか?」
言い当てられて、驚いた。
「おかあさん!」
上総さんが頬をあからめて抗議してる。
「あんたにしては、えらい気張った注文しはるし、朝っぱらからちょっと見ぃひん綺麗なお嬢さん連れて来はるから、てっきりそうやと思いましたわ。ま~ま~。お嬢さん、よぉ、おこしやす。どうぞ~。」
いきなり、おかあさんの態度がガラッと変わった。
……つまり、なんだ……上総さんの遊び相手か彼女か……そういう女性には、冷たいんだ。
歳はお召しだけど、もしかして本当のお母さんなのか、少なくとも、近しい存在なのだろう。
それにしても……上総さん……相当、遊んでらしたんじゃないかしら……
祇園で生まれ育った歌舞伎役者だったら、当たり前かもしれないけど。
私とは別世界のヒトなんだな、とハッキリ実感した。
「へえええ。ほなぁ、学美さんと仰るんですかぁ。学生さん。そうどすかぁ。……西田の柴漬けも食べますか?」
「もう、いいて。これ、村上重やろ?いくら美味しくっても柴漬けばっかり要らんて。」
「……ありがとうございます。」
別世界のはずが、おかあさんは、何だか私を気に入ってくださった……気がする。
素敵なお庭の見えるお座敷に案内してくださったのだけど、おかあさんは、ずっと戸口の内側でニコニコと話しかけて来る。
次第に上総さんは目に見えて困り始めて
「おかあさん、そろそろ、2人にしてくれへん?本腰入れて、彼女を口説きたいねんけど。」
とうとうそんな風に言い出した。
何てことゆーんだ!
思わず上総さんを睨んだ。
「……せやかて、かず坊……学美さんがまた来てくれはるかわからへんのどすから、もうちょっとしゃべらせてぇ?ねえ?」
私は苦笑してうなずいた。
「確かに、こちらは、学生には敷居が高いですね。」
「俺と来ればいいやん。」
こともなげに上総さんは言った。
私はため息をつき、おかあさんは舌打ちした。
それをあてにできないんだってば。
次があるのかないのかすらわからない不確かなご縁なのに。
女2人の不信感がヒシヒシと伝わるらしく、上総さんは不満そうに言った。
「何なん?何で?俺ちゃうやん。俺は誘ってるのに、学美がその気にならへんから……」
「昨日の今日でそんな気ぃなるか!しかも、次、12月って!阿呆ちゃうか。」
思わず本音がこぼれた。
一瞬、おかあさんの眉毛がピクッと動いたけど、目を閉じて黙って控えてらした。
「……まあ、タイミング悪いか、確かに。でも、どうしても歌舞伎は圧倒的に東京での公演ばっかりやしなあ。……じゃあ、学美、東京に観に来たら?」
何言ってるんだろう、このヒト。
マジマジと見つめる。
「何で?」
上総さんは情けない声をあげた。
「何でって!え~?逢いたいやん?逢いたくないん?」
ぷっと、おかあさんが笑った。
おかあさんをちょっと睨んでから、上総さんは私に言った。
「でも、俺、舞台あるし。端役やけど。学美おいでよ。」
「無理。お金ない。私、普段、バイトしてへんし。習い事にお金かかるし。」
つーんと、そう言い放つと、おかあさんが口を挟んだ。
「習い事は、お茶どすか?」
言い当てられて、驚いた。