ほとんどパラダイス
幕間に、上総んからメールが入った。

<どうだった?>

どうもこうも!
ずっと役者さん達にやらしい目で舞台からガン見されてて、居心地悪すぎ!
……上総んは優しい目だったけど。

<かっこよかったよ。目が合うからドキドキした。>

そう返信すると、上総んから着信。

「もしもし?」
『ばーか!俺じゃなくて、学美だよ。大学院の先生、ちゃんと見てくれた?』
「あ……そっちね。」

驚いた。
上総ん、心配してくれてたんだ。
何だか、心がとろけてしまいそう。

「うん。院試の前に茶道具の調査にまで誘われた。なんか、認めてもらえたみたい。院試も大丈夫そう。」
『……よかったぁ。』
しかも、そんな、しみじみと……喜んでくれちゃうなんて……さっさと帰ろうとしてた自分がどれだけ身勝手かと恥ずかしくなった。

終演後、楽屋口に行ってみたけれど……待っていたファンの多さに、諦めた。
少し離れたカフェに入ろうかと離れかけたら、背後からポンと肩を叩かれた。
待っていた他の人たちがざわつく。

……上総ん、それはないわ~。
ファンの人に悪いやん!
でもこの場で怒っていいのかどうか……と、思案しながら振り返った。
ら、上総んじゃなくて、蓬莱屋の大旦那だった。

……睨んで文句言わなくてよかった……。

「お疲れ様でした。御無沙汰いたしております。こんばんは。」
何から言っていいのかわからず、思いつくまま挨拶を重ねた。

「はい、こんばんは。学美さん、遅刻はいけませんよ。悪目立ちしてましたよ。」
……いや、今も、充分、悪目立ちしてしまってます……8代目のおかげさまで。

「申し訳ありません。幕見で拝見するつもりが、いいお席があると窓口で仰っていただいて。」
一応しおらしくそう言うと、8代目はアルカイックスマイルでうなずいた。
怖い~~~。

「京都や大阪と違って、ココでの行動は、上にも周囲にも筒抜けなので、なるべく紛れてくださいよ。ただでさえ目を引くんだから。じゃあね。かず坊もすぐ出てきますよ。」
「……お疲れ様でした。」
なんか、お前は日陰の身だから出てくるな、って言われた気分かも。

しばらくすると、女子が色めきたった。
きたー!
スマートな黒いチェスターコートを羽織った上総んは、きゅん死モノのかっこよさだった。

やばい。
マジでかっこいい……この人。
女の子のファンが多いの、納得だわ~~~。
……てか、今日はスーツ着用?
お呼ばれ?
何か、用事あったのかな?

結局、楽屋口からかなり離れたところで、上総んのファンとのふれあいを眺めて待った。
毎日こんなことやってんのか~。
そりゃ、お手紙も差し入れもプレゼントも山となるわけだ。
かなりの時間をかけてようやく波を全て乗り越えた上総んは、私を見て表情を緩めた。

が、こっちに来ようと歩き出した上総んの腕を、綺麗なお姉さんが引っ張った。
遠目にも美人に見えた。

……何だ何だ?
突然現れた美女に捕獲されちゃったよ、上総ん。
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