ほとんどパラダイス
「まあ若いから。……そういえば、上総(かずさ)ん、峠くんを『友達』って言ってたけど……」
「ああ。……図々しかったかな?峠くん、怒ってなかった?」
「別に怒りはせんやろけど。上総ん、誰にでもフレンドリーだなって思って。ファンサービスも手厚いし。」

上総んは少し首を傾げた。
「そう?……そうかもね。まあ、人気商売だから。でも、峠くんは別に贔屓筋でもファンでもないから、ホントに友達になりたいな。彼、いいよね。」

……どう、いいのだろう?
ついBL的萌えを期待してしまう。
あ!そうだ!そうやん!
上総んて、女性経験だけじゃなくて、男同士も経験してきてるのよね!?
ひや~!
想像すると、楽しすぎる。
妄想が広がるわー。
すぐ横の綺麗なお顔を見上げて、私はいつまでもニマニマしてしまった。

「ん?桜より、俺に見とれてるの?」
しれっと上総んがそう言った。

まあ、その通りなんだけど。
何となく癪なので、私は話をそらした。
「それにしても……おいしかったわ。今日も。何であのお店のお料理は美味しいんだろ。使ってる水も、材料も、おだしも、口に合うのよね。」

私がそう言うと、上総んは苦笑した。
「誤魔化されたか。……まあ、あそこの板さん、京都で修業してたからね。今もめちゃめちゃこだわってるんだよね。本気で、だしをとる水まで京都から取り寄せてるんだって。」

水!
すごい!

「お豆腐もお揚げさんも、湯葉も京都の味で感動する~。今度、汲み上げ湯葉しよ。〆はお豆腐。」
「……なるほど。学美はベジタリアン系メニューなら機嫌よく食べてくれるんだ。じゃあ、アボカドやピーナッツなんかも大丈夫?」
上総んにそう言われて、ちょっと考えた。

「確かに。大丈夫そう。ベジタリアンかー。つまんないね、なんか。」
私の場合、体質は草食系だけど、心は肉食というか。
「こんなにガツガツしてるのにな。」
クスッと笑って、上総んは私の肩を抱き寄せた。



翌日、院生研に着くと、またしてもM2の坂本氏に声をかけられた。
なるべく控えめに最低限の返事だけをしていたけれど、ますます気に入られて懸想されてる気がする

……。

ああ、めんどくさい。

もやもやしてると、お昼前に北津留 美子さんが来た!
「美子さん美子さん!おはようございます!ちょ、ランチ行きません?」
突然、声を張った私に、坂本氏はポカーンとしていた。

「おはよう~。どうしたの?」
美子さんは、坂本氏の表情を笑いながらも、私と一緒に院生研を出てくれた。

「何か、内緒の話?」
そう聞かれて、私は何度も首を縦に振った。
「あの!夕べ、自由が丘の割烹に行ったんですけど……」

うんうん、と美子さんが相づちを打つ……なんか、かわいいな。

「峠くんがバイトしてました!」
「え!?」

思ってもみなかったのだろう。
美子さんは、心底驚いていた。
みるみるうちに赤くなって、何度も

「え?え?え?」

と繰り返した。
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