翠花火
翠花火
☆
『おーい、山下ぁ。スカート短いぞ~。
膝下だって言っただろ』
『はいはーい。すいません、今直しますよーっと』
さげられたスカートの丈は、
数分もしないうちにもとの短さへと戻された。
『こら!すぐ戻してどうする!!』
『みんなこんくらいじゃん!』
『そのピアスも取れ!ケータイをいじるな!』
中年のオヤジと、華の女子高生の終わらないやり取りを、
俺はイライラしながら黙って見ていた。
『おう、どうした?修平』
『ああ、茜か。別になんでもねえよ』
『なんでもなくないだろ。
まーた怒ってんじゃん。嫉妬深い少年よ』
『誰が嫉妬深いって?怒るぞ』
『修平くんが怒ってるのはアイツにだろ?』
茜が指さす先には、別な女の子を追いかけるように
ガミガミ注意し倒すあのオヤジ。
まあ、その通りなんだけどさ。
『おっ。お前のお姫様がこっち気付いたぞ。
邪魔者は退散するかな』
『お前ね、調子乗ってからかうなよばーか』
ニヤニヤしながら離れていく茜の背中にそう言い放つ。
そうしてふいに、目が合うんだ。
あっ・・・。
っと思った時にはもう遅い。
格好つける余裕すら与えてくれない彼女は、
俺と向かい合わせで座ると妖艶に笑うんだ。
『修平。何見てたの?さっきから』
『別になんも見てねぇよ。自意識過剰な女め』
『はあ?何か最近かわいくないよね、修平』
『かわいくなくて結構』
ほら、出た。
お前のせいだからな。
魔性の女とはこういうこと。
俺を無遠慮にも振り回す彼女の名前は山下紗季。
俺の、たった一人の、好きな人。