翠花火
翠花火。
翡翠の色が魅せる大きな花火は、
人に知られることなく打ちあがってきた。
見た人は、ほとんどいない。
真夜中の静かな花火。
その花火が打ちあがるとき、
願いごとをすればその願いは叶うとされる不思議な花火。
一緒に見たいと言った紗季は今、
どんな気持ちで1人屋上にいるんだろう。
秋の風は、冷たい。
顔に受ける風がピリピリと痛みを運んでくる。
俺が学校の門前に着いた時、
時計の針はその時刻を迎えようとしていた。
紗季が通ったであろう明かりがついた道を急ぐ。
階段を駆け上がって、上へ上へ。
屋上へ続く重い扉をゆっくりと開けた俺の目に、
緑色の世界が広がった。
『紗季・・・っ!』
その名前を呼ぶと、紗季は振り返った。
俺を捉え、驚いた顔を見せて、
そうして次第に泣きそうな顔を見せた。
『修平、なんで来たの・・・』
『お前が・・・お前が見たいって言ったんだろ』
『でも、修平あの時・・・』
紗季が自分の手をそっと見つめて、口を噤んだ。
紗季が言いたいことはわかってる。
あの時、紗季の手を離してしまった俺が悪かったんだ。
俺は紗季の手を取って、紗季をじっと見つめた。
紗季の手は震えていて、きゅっと目を閉じていた。
『紗季、俺は・・・』
俺は、お前が―。
『・・・っ俺はさ、お前が心配なんだよ。
危なっかしいし、何かと目立つし、
弱いとこなんか全然みせないで強がるくせに、
どっか不安げなとことかさ。
自分が女の子だってもっと自覚しろよな。
あんなオヤジに校則がどうとかで髪とか触らせんなよ。
そういうの見てると腹立つんだよ。
お前が男と一緒になって遊んでたり、
冗談めかしてからかわれたりすんの見るのも嫌なんだよ。
つまり何が言いたいかって言うと俺は・・・っ!』
・・・ああ、もう。格好悪くたっていい。
余裕を見せようと取り繕うとしなくたっていい。
ただ俺は、お前が好きだってこと、伝えたくて・・・・。
『俺はさ、お前のこと守ってやりたいんだよ』
好きだって、言わなくちゃ。
『今までみたいに、すっげぇ近くにいたいんだよ』
そうじゃなくて、好きだって。
・・・でも言えなかった。
俺にはそれが、精一杯だったんだ。