翠花火







〈翠花火、かぁ〉



大きな目を輝かせて、少年は言った。



〈で?修平は何のお願いごとをしたの?〉


〈俺?俺は“来年も紗季と翠花火を見れますように”ってさ〉


目の前の少年に目線を合わせてしゃがみ込み、
頭をぽんぽん、と撫でた。


少年は不機嫌な顔を見せて俺の手を振り払うと、
一つ咳払いをしてみせた。



〈やめろってば!子供じゃないんだから〉


〈え?お前どっからどう見たって子供だろ〉



〈うるさい〉


〈はいはい、悪かったよ〉



少年の青い瞳が揺れるのを見ると、
どうしたってからかいたくなる。


怒ってるくせに、今にも泣きそうに
目に涙が浮かんでいくのが面白くて、可愛くて。


少年はそっぽを向いて口を開いた。



〈その翠花火の噂は嘘だったんだね〉


〈なんでだよ〉


〈だってその願い、もう叶わないじゃんか〉


〈お前ね・・・傷抉んなよな〉



少し肌寒い、秋の夜。


冷たい風を感じながら
やんちゃな子供のようにじゃれ合う俺たちの横に、

背の高い1人の男が静かに立った。




〈茜・・・〉


茜はふうっと一つ息をつくと、
空を見上げてポツリ、ポツリと呟いた。


「あいつらもアホだねぇ。
 どっちにも早く好きだって言え!って言ってやったのに。


 どっちも言わない、なんてさ。
 バカみたいな願いごとしやがって」




それはきっと、俺たちのこと。


茜は更に続けて言った。


「“もう喧嘩なんかしませんように”と
 “来年も一緒に見られますように”ね。


 そんなちっさな願い、
 わざわざこんなとこでしなくてもいいだろうに」




“修平と、もう喧嘩なんかしませんように”


“紗季と、来年もこの場所で翠花火が見れますように”




それが、俺たちの願い。


あの時願った、たった一つのお願いごと。





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