翠花火
『ねえ。修平さ、“翠花火”って知ってる?』
『翠花火?なんだそれ』
教室を出て、廊下を2人並んで歩く。
いつもは凄く強く見える紗季は、
こうして隣を歩くと小さくて、
サラサラした髪が歩く度にふわふわと踊る。
言いにくそうに挙動不審にも
きょろきょろと視線を泳がせながら紗季は続けた。
『今度の木曜日、花火大会があるじゃない?
それさ、終わるのが21時くらいでしょ?』
『ああ、そう言えばそうだな』
『花火大会が終わってみんなが帰ったあと、
日付が変わる15分前にね、
翠花火っていう幻の花火が上がるんだって』
『・・・なにそれ。本当の話?』
『本当の話!
でもあたしも見たことないの。だから・・・』
翠花火。
ちょっと気になった。
わざわざその話を俺にするってことは、
紗季の言葉がこの後どう続くのか、
俺には安易に予想出来た。
自惚れってこういうことを言うのかな?
『だからさ、その日一緒に・・・』
“一緒に花火を見よう”って、そう言うんだろ?
そうやって可愛く、俺を誘うんだろ?
わかってる。
だって俺はずっとお前の近くにいたんだから。
その答えは勿論、最初から決まってる。
『おっ、修平と山下がまた一緒にいるぞ』
『仲良いよなぁ。付き合ってんじゃねえの?』
その声に、紗季も俺も声の飛ぶほうを見た。
また、始まった。幼稚なからかいの声。
気付けば行く先には男子の群れ。
簡単に言えばモテない奴らの僻みの会。
女子と接点ないからって茶化してんじゃねぇよ・・・。
はぁっとため息をついて紗季の手を引くと、
紗季はその手を振り払った。
『つ、付き合ってなんかないし。
大体こんなやつ、好きでもなんでもない!!』
チクリ・・・。
天邪鬼で、素直じゃない紗季の性格を
よく知っているはずなのに、
何故か妙に胸が痛んだ。