翠花火
大きな声で紗季が否定するもんだから、
その場にいた奴らの空気が一変する。
騒いでいた声が消え、全員が注目する。
紗季ははっとしたように俺に触れると、口を開いた。
『あ、あんたもそうでしょ?
ただ仲良いってだけだもんね?』
仲良いだけ?
『あたしなんて男友達みたいなもんでしょ?
いっつもあたしのことからかうしさ!』
男友達?
『あたしだってあんたは恋愛対象外っていうか、
なんかお兄ちゃんのような弟のような・・・』
いつも以上に、よく喋る。
でも俺は・・・俺は・・・・。
『ねえ?修平―』
『・・・うるせえな』
『え?』
イライラした声が、つい口から零れた。
俺はその手を、振り払ってやりたかった。
無性に腹が立って、同じことをしてやりたくなった。
だけど、出来なかった。
だから俺は・・・。
『紗季。女はさ、好きじゃない奴に
簡単に触れちゃいけないんだよ』
そう諭すように静かに言って、そっとその手を離した。
紗季が呆然と離された手を見つめた。
『修平・・・?』
『そのなんとか花火、好きな奴と見に行けよ。
仲良い“だけ”の俺じゃなくてさ』
紗季の前だと、何故だか余裕がなくなるんだ。
強い俺で、いられなくなる。
大人になりきれなくなる。
どうしても、子供のように幼くなる。
だから精一杯、本音を隠して笑った。
『次の授業、移動だろ?遅刻するぞ』
『ねぇ、修平。待って―』
『ほらほら、お前らもいつまでも見てないで散れ!』
ただただ、ふざけてないと泣きそうで。
いつものように振舞ってないと崩れそうで。
背中に刺さる紗季の声を聞けば
とんでもなくみっともない俺になりそうで。
俺はわざと応えることなくその場を後にした。
紗季を置いて、
紗季に背を向けたのは、初めてだった。