翠花火
10月15日、木曜日。
風が強くて、肌寒い日だった。
いつもの日常。いつもの顔ぶれ。
だけど全然、いつも通りじゃない。
それはきっと、あいつのせいだ。
『なーに腑抜けた顔してんだよ』
『・・・茜』
『紗季ちゃんと喧嘩したの、噂になってんね~』
『お前、その話やめろ・・・』
『うん。だけどこれだけ言っとく。
この喧嘩はお前が悪い』
『はぁ?』
茜の一言に、思わず顔を上げて茜を見た。
俺が悪い?なんで?
『なんでだよ。あいつが先に・・・』
『だってさ、お前は紗季ちゃんのことをよく知ってんじゃん?
いくらあんな形で振られたからって
あれが本音じゃないことくらい分かるだろ』
『・・・さぁね。どうだか』
『それにもう一つ』
茜がここぞとばかりに張り切って、
人差し指を突きたてた。
『紗季ちゃんが誘おうとしてた花火、
今日が何の日なのか覚えてんの?』
『何の日って・・・』
10月15日、木曜日・・・?
平日で、学校で、花火大会があって・・・・
それで・・・・。
『あ・・・・』
『それを忘れてたのがお前の悪いとこだろ』
茜は呆れたようにそう言って立ち上がった。
『紗季ちゃんにさ、じゃあ俺と行こうよって
誘ったんだよなぁ』
『え?』
『花火。普通の花火大会もそうだけど、
その後の噂の翠花火も』
なんで茜なんだよ。
誘われたら行くって言うのかよ。
俺を誘おうとしてたくせに。
好きなやつと行けって言ったけどさ、なんで茜なんだよ。
『お前さ、紗季と俺のこと
あんだけ茶化しといてそういうことするか?普通』
『なかなか素直にならないお2人さんを見てるのが歯がゆくてね。
親友としては応援してるけど、
そろそろ自分のことも優先すっかなぁってさ』
『自分のこと?』
『紗季ちゃんを好きだってこと』