翠花火
茜の言葉だけが、耳に強く入ってくる。
他は何も聞こえない。
教室の中の喧騒も、
校内に響くアナウンス放送も、
全てをシャットダウンして、茜の声だけが響いた。
『わりと本気だかんね。
冗談だと思ってるかもしれないけどさ』
『なんで・・・』
『お前だけがあの子を知ってるわけじゃないよ。
俺だって、ずっと見てきた。
だから俺はあの子の本音も知ってる』
茜は俺をじっと見つめて、視線を外すことなく続けた。
『俺がもらっちゃってもいいの?』
『・・・・』
『後で後悔しても遅いんだからな。
言っておくけど、俺は紗季ちゃんに好きだって言うつもりだよ』
茜はそう言うと、教室を出て行った。
1人になった俺の視界に、
ふと窓の外をぼうっと眺める紗季の姿が映った。
手を口元までもってきて、
ふうっと息を吐きかけるその仕草がとても愛おしくて、
そうしてなぜか胸が痛むのを感じた。
茜が、紗季を好き?
なんだそれ。なんだよそれ。
今までそんなこと言わなかったじゃないか。
なんで今さら言うんだよ。
どうして、このタイミングで言うんだよ。