翠花火








あれ・・・?


茜がいる。


俺を見て、笑っている。





『・・・だから言ったのに』




え?何を?




『俺が貰ってもいいの?って聞いただろ』




紗季・・・?




茜の隣に、紗季がいる。











ドン―






大きな破裂音がして、目が覚めた。


あれは夢・・・?


いつの間にかバスは止まっていて、
目の前には運転手のおじさんが心配そうに俺を見ていた。


『お客さん、大丈夫?具合でも悪いのかい?』


『え・・・いや大丈夫です・・・』






ドン―








再び響く破裂音に、俺は窓の外に目をやった。


真っ暗な中、一際目立つ色とりどりの花。


冷え切った車内と、ついさっき見ていた夢の中の2人。



ああ。


行かなくちゃ。



『紗季・・・』



茜じゃダメなんだよ。



『紗季!』



放たれたようにバスを降りると、
そこは花火大会の会場からはだいぶ離れた終点だった。


走って、走って、
花火の音を頼りにただひたすら走った。


次第に花火の音も途絶えて、
会場に近付けば近付くほど、
帰り道を歩く人たちにすれ違った。


幸せそうに寄り添いながら歩くカップルを見て、
脳裏には紗季と茜の姿が浮かぶ。


そんな不安を振り切るようにがむしゃらに走ると、
人ごみの中に1人の男がこちらをじっと見つめて立っていた。



『遅いぞ』


『・・・茜』




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