翠花火
*
あれ・・・?
茜がいる。
俺を見て、笑っている。
『・・・だから言ったのに』
え?何を?
『俺が貰ってもいいの?って聞いただろ』
紗季・・・?
茜の隣に、紗季がいる。
*
ドン―
大きな破裂音がして、目が覚めた。
あれは夢・・・?
いつの間にかバスは止まっていて、
目の前には運転手のおじさんが心配そうに俺を見ていた。
『お客さん、大丈夫?具合でも悪いのかい?』
『え・・・いや大丈夫です・・・』
ドン―
再び響く破裂音に、俺は窓の外に目をやった。
真っ暗な中、一際目立つ色とりどりの花。
冷え切った車内と、ついさっき見ていた夢の中の2人。
ああ。
行かなくちゃ。
『紗季・・・』
茜じゃダメなんだよ。
『紗季!』
放たれたようにバスを降りると、
そこは花火大会の会場からはだいぶ離れた終点だった。
走って、走って、
花火の音を頼りにただひたすら走った。
次第に花火の音も途絶えて、
会場に近付けば近付くほど、
帰り道を歩く人たちにすれ違った。
幸せそうに寄り添いながら歩くカップルを見て、
脳裏には紗季と茜の姿が浮かぶ。
そんな不安を振り切るようにがむしゃらに走ると、
人ごみの中に1人の男がこちらをじっと見つめて立っていた。
『遅いぞ』
『・・・茜』