翠花火




制服のままで、鼻を真っ赤にした茜は
俺を見据えてしっかりとそこに立つ。



俺は乱れた息を整えるように大きく息を吸い込み、
そうして茜を見た。



『なんでお前1人なんだよ。あいつは?』


『紗季ちゃん?翠花火を見に行ったよ』


『・・・なんで1人で・・・』



茜はふうっと大きな息をつくと、
空を見上げて笑った。


『俺じゃだめなんだなぁ。あの子は。
 一緒に見たい相手は俺じゃないってさ』


『茜・・・お前、あいつに・・・っ』


『言う前に振られたってやつかな。
 紗季ちゃんって変わってるよ。


 こんなに優しい優しい俺じゃなくって、
 鈍感で意地っ張りな男の方がいいなんてさー』




茜は俺の胸にトン、と拳を突きたてると、
真剣な目を向けた。



『好きなら好きだって、言ってきな。
 言わなきゃ伝わんねぇぞ』



『俺・・・俺はあいつが・・・』



『ばか。俺に言ってどうすんだよ。
 その言葉を向けなきゃいけない相手はさ、
 学校の屋上で待ってるぜ』



『学校・・・?』




茜が腕時計を確認して、ふっと小さく笑った。




『22時56分か。
 走れば間に合うんじゃないの?翠花火』







紗季が、待ってる?




誰を?




・・・俺を。







23時の寒空の下、
人の影はもうほとんど見えなかった。





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