遠くにみえる夜景 と 海に浮かぶ白い月
ある程度歩いたところで、砂浜に腰を下ろし、夕日を眺めることに集中した。

「もうすぐ日が沈むね。綺麗。」
私は彼に向かって小さく呟いた。
返事はない。

私はそれを特に気に留めることもなく、再び夕日を見ることだけに集中した。

しばらく黙って夕日を眺める。
太陽が少しずつ海に飲み込まれていく。

「あのさ。」

「ん?」
突然言葉を発した彼の横顔を見る。

「…あのさ。」

なかなか言葉の続きが出てこない。

「これ。」

おもむろにズボンのポケットに手を突っ込んだ彼は、小さくて、四角い箱を私に差し出した。

「開けてみて。」
そう言われるのとほぼ同時に、私はそっと箱を開けた。

やっぱりそうだ。

婚約指輪。

「…結婚、しよっか。」

結婚、しよっか。
彼の言葉を頭の中で復唱する。
結婚、しよっか。
もう一度復唱する。

「…美咲?」
名前を呼ばれて、はっとする。
答えなければ。

これまでの8年間は確かなものだった。喧嘩はもちろん沢山したけど、一度も別れたことはない。ずっと変わらずに愛し続けた。きっと、これからだって大丈夫、ずっと愛し続けられる。彼となら、幸せな家庭を築けるはずだ。

だから、大丈夫。
そう自分に言い聞かせて答えた。

「うん、よろしくお願いします。」

彼はにっこりと微笑み、指輪を私の指にはめ、そっと肩を抱き寄せた。私は彼にもたれかかる。

幸せ。私は彼といて幸せなのだ。




しかし、幸福感が全身を満たすなか、ぽっかり穴のあいたような小さな空間だけ満たされないような感覚を覚えた。幸福感は、そこがあたかも存在しないかのように、その空間を除いて全身を満たしていく。

私はこの人を愛してる。

空間を無理やり埋めるかのように、そう何度も心の中で繰り返した。


空はブルーから茜色に、そして、少しずつ濃い藍色がせまっていた。

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