幸せのかけら
ーーーーーーフェンスの中にいる同期らしき人の会話が聞こえてきた。
企業だから4年制卒の人もいそう。
これから響と同じ環境にいる人。
フェンスが境界線になっているようで、一気に不安になった。
"……私も差し入れ持ってきたんだけどな"
この中に入る勇気もないし、別の場所に移動しようか考えていると
"ーーー差し入れ?誰に?"
すぐ隣なら声がして横を向くと、スーツ姿の男性がいた。
"えっと……どちら様ですか?"
"あれ、うちの会社のコじゃないのか。
知り合いがこの中にいるの?"
"はい。この後約束してて……疲れてるだろうからはちみつレモンを"
"そっか。
でもここ離れようとしてなかった?"
"お邪魔かなと思いまして"
"まあ、入りづらいよね。
俺さ、お腹すいてて。
それくれない?"
"え"
ーーーまさかねだられるとは思ってなかった。
でも、響の会社の人なら断りづらい。
"ひとくちだけ。
ダメ?"
"…………………ひとくちだけなら"
タッパーを取り出して、つまようじに差していたレモンをひとつ差し出そうとした。