幸せのかけら
"ーーーーーー道、覚えた?"
初めて降りた土地。
何回か乗り換えて、これから響が暮らすところへやってきた。
"うん"
"覚えて。ひとりでも来れるように"
ーーーこれから、何回も、ここに来るんだ。
そう思いながら、景色を焼き付ける。
目の前には綺麗なマンション。
会社はここから自転車で20分くらいらしい。
"……家賃高そう"
"会社から家賃補助出るし、あまり妥協はしなかった。
セキュリティもしっかりしてるところが良いし"
"今のご時世、男の人も気をつけないと"
"ばか。
愛の心配してんだよ"
頭ポンポンされ、その優しさににやける。
"ーーー好き"
"はいはい"
オートロックの解除の仕方も教わり、ドキドキする。
"はい。どうぞ"
"……お邪魔します"
ふわっと、あの柔軟剤の匂いがした。
黒を基調とした家具。
所々に段ボールが散らばってる。
"……愛、何固まってんの?"