キミのことがスキなのに…。
廉くんとバイバイしたあと、誰もいない自分の家に入った。
共働きの両親は毎日、私が学校から帰って来る時間はいなくて、
そんな私のことを廉くんはいつも心配してくれていた。
付き合い始めた時は、学校から家までの道をゆっくり歩いて
私が一人でいる時間を短くしてくれたり、
廉君が家に着いたら、電話をしてくれて寂しい時間を楽しい時間に変えてくれた。
でも、私が「もう大丈夫だよ。」って伝えるといつも何も言わずに「じゃあ、明日なっ!」って言って話をやめてくれて、私も笑顔で話を終わらせる。
今日は何時に帰ってくるのかな…。
ママにだけは悩み事もなんでも話せる私にとってはママの存在はとても大切で、
廉くんと付き合っていることもママにだけは話していた。
パパはいつも優しくしてくれて、私の帰りが遅いだけでもすごい心配してくれる。
だからこそ、廉くんと付き合っていることをパパに言うのは少し抵抗があった。
ママには言っておきたいな。病気のこと。
今は誰にも言えないから。せめてママだけには。
だから、早く帰ってきてママ。
涙が出てきた。
今日、病院でも学校でもそして廉くんの前でも泣けなかったから。
1人になったら、誰にも見られてない安心感からかいきなり涙が溢れて止まらなくなった。
誰か助けてって、なんで私なのって心が叫んでいる。
本音だった。心は嘘をつかない。
廉くんに話せば少しは楽になれたのかな。
でも、1人になったら不安がたくさん出てきた。
誰かのことを見ていないと全てを忘れてしまうんじゃないかって不安が。
ガチャ。
ドアが開いた音がして後ろを振り返ると、ママがいた。
「あれ?結麻?どうして泣いてるの?」
ママは驚いて私の傍に来てくれて、思いっきり抱きしめてくれた。
私は涙を拭い、ママに笑顔を見せた。
「私、泣いてないよ。大丈夫だよ。」
精一杯の笑顔を向けた。つもりだった。
ママにそんなことを言ったら、また涙が溢れてきちゃって、
拭いても拭いても涙は止まってくれなかった。
「なにかあったの?廉くんと?」
ママはあたふたして思いつく限り色々なことを聞いてきた。
「…き…だった。」
「え?」
「ママ…。私、病気だった…」
こう言うしかなかった。
他に言葉が思い当たらなかった。
ママは何も言わずにただ固まったままで、私を抱きしめていた手の力が緩んでいった。
「記憶がね、無くなっちゃうんだって。」
話してるうちにママは静かに涙を流していたことに気付いた。
「ママ?」
「ごめんね、結麻…。」
それだけ言うとママは私をもう一度抱きしめてから自分の荷物を置いて、
家のドアを開けて、出て行った。
「ママ?行かないで…ねえ、ママ!!行かないでよ!」
泣きながらそう言う私にママは優しい笑顔を見せてこう言った。
「少し頭を冷やしたいの。結麻のせいじゃないから。
でも、少しだけ頭を冷やしたいの。」
そう言ったママを止めることをできなくて、
ただ玄関にしゃがんでしばらくの間、1人でずっと泣きじゃくっていた。
言わなきゃよかった。って思った。
こんな思いをママにさせちゃうくらいなら自分1人で抱え込んだ方がマシだって思った。
でも、きっと1人で抱え込むなんてこと私がしたら、ママに後で怒られちゃう。
『なんでもっと早く言わなかったの?!』
って泣きながら怒るんだ。
そんなママのことを考えていると気持ちが軽くなって、涙が止まった。
自分の部屋に行って、ベッドに体を預けると、すぐに眠りにつけた。
今日あったことをしっかり覚えていられますように。
そんなことを願いながら、眠りについた。