瞬華
---奴ら、本格的に俺を殺るつもりのようだ---

 ふぅ、と顔を上げた林太郎は、ふと左腕に疼痛を感じた。
 見ると着物が裂けている。

 どうやらさっきやり合ったときに斬られたらしい。
 幸いかすり傷だが。

---あいつ、出来る---

 いつもの奴らは敵ではない。
 だが今日いた牢人は、ただの徒牢人ではなかった。
 しっかりと修行を積んだ剣の腕だ。

---もうケリをつけないと、いい加減お志摩が危ねぇな---

 だが勝てるか……。
 思いつつ路地から出て少し歩いたところで、前方に己を探している男を見つけた。
 いつもの遊び人と一緒にいる男だ。

 林太郎は刀に手をかけて走り寄った。
 その足音を聞きつけて、前方の男が振り返る。

「てってめぇ……」

 男が手にした匕首を構える。

「いい加減に手を引け。さもなくば斬り捨てる」

 刀の鯉口を切り、林太郎は男に言った。

「へっ。何だかんだで逃げてばっかの野郎が、粋がるんじゃねぇ」

 男が馬鹿にしたように言う。
 林太郎は今まで、特に剣技を見せてこなかった。
 見せるまでもない相手だったからだが。
< 4 / 10 >

この作品をシェア

pagetop