瞬華
「お前こそ、そろそろ諦めたほうがいい。兄ぃはあの女にご執心だ。そう簡単に諦めねぇぜ。良い女だったもんなぁ。兄ぃのモンになったら、俺もお零れを頂くよ」

「あの男は、お前の兄貴分か」

 言いつつ、林太郎は足指を這わせて少しずつ男との間合いを詰めた。
 徐々に姿勢が低くなる。

「おぅよ。兄ぃはモノにした女を、俺たちにも回してくれる。飽きたら廓に売って、その金で遊ぶのさ」

「なるほど。そんなことをべらべら喋る子分を持ったことが、あいつの不幸だったな」

 そう言った瞬間、林太郎の身体が、ぐっと沈んだ。
 同時に、銀色の光が闇を裂く。
 前の男は、先の薄笑いを浮かべた表情のまま、その場に突っ立っていた。

 そのまま林太郎は身体を戻して刀を納める。
 ちん、と刀が鞘に納まった音を合図に、男が頽れた。
 同時に夥しい血が噴き出す。

「大好きな兄ぃも、すぐに送ってやる」

 何が起こったか理解できないまま身体を真っ二つにされた男に冷たい視線を残し、林太郎は通りを歩いて行った。
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