ビューティフル・ワールド
そして、すぐそこに迫っていた夏は、あっという間にやって来て。
柳瀬はオーナーと連れだって、りらの個展のプレオープンに訪れた。
底意地の悪いりらの予言通り、伊東愛美は念入りに化粧を施して、肉感的な身体を強調するワンピースに身を包み、成熟した女の色気をこれでもかというほどに漂わせながら現れた。
戦闘態勢だ。柳瀬は苦笑を禁じえなかった。
とはいえ、先日大久保に馬鹿げた水面下の戦いを自らふっかけ、体験してしまっている以上、嘲笑する立場にないな、と柳瀬は思い直す。
白林美術館のロビーは名だたる業界人ーー見かけたことのある大物画家に中堅画家若手画家、その他多方面の芸術家、高名な美術評論家、ギャラリー関係者、美術誌からファッション雑誌までの関係者、テレビ関係者、それからカメラ、海外からも来客があり、
りらへの注目度の高さを如実に物語っていた。
仮設のバーまであり、しめやかなパーティーさながらだ。
そこに恐ろしいまでの美しさを放つ柳瀬と、美術界で名を馳せているギャラリーメイユールのオーナーが登場し、その場はより一層華やかなものとなった。
主役はすぐに見つかった。
多くの人に取り囲まれながら、高揚した様子もなく、りらはいつも通り超然として笑っていた。
ただ、背中の大きく開いたゴールドのワンピースを着て、目元をキラキラと輝かせ、目尻で跳ね上げるアイラインを引き、ピンヒールで立つその姿は、
いつもの気の抜けた格好からは似ても似つかないほど眩かった。
自然とそちらへ踏み出した柳瀬の腕に、オーナーがさり気なく腕を絡ませてきた。