ビューティフル・ワールド

人々の視線が否が応でも柳瀬に集まり、ほどなくしてりらも彼に気がついた。
赤い口紅を綺麗に引いた唇で笑みを作り、向かってくる二人へと歩む。

「よう。」

軽い挨拶をして、組まれている柳瀬と、伊東愛美の腕に目を留め、面白そうに片眉を上げた。

「どうも、本日はお招きありがとう。」

伊東が艶然と微笑んで言った。

「うちの柳瀬が、いつもお世話になっております。」
「いえいえ、とんでもない。」

りらは飄々としたものだ。
やはり、妬いてはくれないのか、と柳瀬は僅かに落胆した。様子を見るだけ無駄だった。
まさか付き合っているとは思われていないだろうが、変な誤解を招かないよう、柳瀬はさりげなく伊東の腕をほどいた。それから大きく一歩踏み出し、りらの剥き出しの背中に触れた。

「綺麗だ。」

おまけにりらの額に軽く口づけてみせる。
くだらないパフォーマンスだ。
りらを所有できる者などいないだろうが、自分がそれに一番近いところにいるのだという周囲へのアピール、
自分は伊東愛美のアクセサリーではないのだというアピール、それから伊東の目の前でこうすれば、多少なりともりらの優越感をくすぐることができるだろうという打算…
周りが注目している中で、りらは満足げに笑った。

「メイクアップアーティストの友達が私の顔を総とっかえしてくれたからね。こういうのは、プロに任せるに限る。」

じゃあ、どうぞ是非楽しんで、と言って、りらがワンピースの裾を翻して去りかけた時。

「茅野さん!」

もういい加減聞き飽きた声がりらを呼んだ。
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