ビューティフル・ワールド
振り返れば、大久保が赤い薔薇の花束を抱えて小走りに近づいてくるところだった。
あら、と伊東が零している。可愛い男、という心の声が柳瀬は聞こえた気がした。
普段の虐げられ慣れ過ぎた言動を知らなければ、童顔とはいえ大久保とてなかなか様になる男だった。
スーツを着込み、薔薇の花束だってそう似合わなくはない。一定の需要はあるだろう。
「この度はおめでとうございます!」
「お前何荷物になるもの持ってきてくれてんだ。どうせお前が持って帰って活けることになるんだぞ。」
りらは迷惑そうに言った。
それでも一応、恥をかかせないという親切心で、一抱えの薔薇を受け取る。
それがまたゴールドのきらびやかなワンピースとよく合っていて、傍から見れば大久保はなかなかいい仕事をしたはずなのだが、りらはため息をつき、今度こそ去っていった。
「お友達?」
伊東が柳瀬と大久保二人に声をかける。
「ああ、茅野さんのところでよくお会いするんです。大久保さん。」
「初めまして、ギャラリーO(オー)の、大久保です。」
大久保が伊東の色気にあてられるというよりはショッキングなものを見たという感じで目をしばたかせて、挨拶をする。
「あら、大久保さんって、オーナーの大久保さんとご関係があるの?オーナーさんとは知り合いよ。」
「あ、ええ、まあ…オーナーは父方の親戚で。」
さすがに、伊東は顔が広い。
そしてコネクションを広げることにいまだに貪欲だ。
はあ、とか、まあ、とか歯切れの悪い返事をする大久保を、なんやかんやと押しの強さで巻き込み、両手に花状態で展示会場に三人で入っていくことになった。