ビューティフル・ワールド
3.
会いたい、と。
思っていなければ、こんなに、此処まで通い詰めるわけはなくて。
柳瀬はもう歩き慣れた都内の住宅地の緩やかな坂を今日も上る。
自分がりらを好きなのはもうずっと前からで、というか、出会った瞬間から焦がれていたのは、わかりきっていたことで。
ただ、報われない欲望にもがき苦しむことから、なんとか気を逸らしてきたのだ。
自惚れでもなんでもなく、あまりにも、求められ過ぎた人生だった。
こうしてそれなりに美術商としての実績を積んでくる間に、情夫めいたことをしたことだってある。
画家や作品を求める立場にあるにも関わらず、多くの者が、ある時はその美しさを、ある時はそれ以上を、求めた。
伊東愛美だって、柳瀬の能力を見込んでスカウトしたのは間違いないが、いつも彼を所有物にしたがった。対外的にも、本質的にも。
彼は人を惹きつけ過ぎる。
物心ついた時にはそれは当たり前で。
求めてくる人としか関わってこなかったし、それだけで人生は充分に豊かだった。
だから、柳瀬はりらを求めてはいなかった、ともいえる。
否…柳瀬は一人で自嘲の笑みを溢す。
求められるはずだ、と、思っていたのだ。
たぶん、求められるのを待っていた。
視界に入りさえすれば、それは成功すると、浅はかにも、けれどそうでなかったことはなかったから、経験則で無意識に思い込んでいたのだ。
だけど、違う。
りらは柳瀬も、誰も見ていない。
りらは自分の目に映る、美しい世界だけを、見ている。
美しい彼は、美しい世界の一部に過ぎない。