ビューティフル・ワールド
「…個展…よかったよ。」
抱き合った後にまず言うことではないとは思ったが、これをまだ伝えていなかったと思い出し、呼吸が落ち着くまでたっぷり待って、
柳瀬はりらの肌に触れながら、そう言った。
「ふうん?」
りらは悪戯っぽく笑いながら肘を大きな枕につき、柳瀬の顔を見下ろす。
そんなことはわかりきっている、という顔だった。
「先輩がそう言ってくれるなら、安心だ。」
「先輩は、ほんとにやめろ」
柳瀬は噛みつくようなキスを下からお見舞いし、りらの首の後ろを掴んで引き寄せた。
「りら、本当に。心全部、持っていかれた。作品も、お前も、どうしようもないくらい好きだ。」
駆け引きなんか、きっと通用しないだろう。
だから柳瀬は、こんなことは生まれてこのかた口にしたことがない、というほどストレートに言った。
「熱烈だなあ。」
りらは口を大きく開けて笑った。
自尊心をくすぐられたようだった。
だけど、それだけだ。何も、応えが無い。柳瀬はそれ以上どう言えばいいのかわからない。
りらが柳瀬の輪郭を確かめるように熱心にそこかしこを指でなぞる。
ここまで言っても、言葉が届いていない。
りらは美しさただそれだけにしか関心を示さない。
「綺麗だなあ…」
呟いてから、りらは猫のように伸びをした。
「柳瀬、コーヒー。」
柳瀬は苦笑した。
女と寝てからコーヒーを淹れさせられたことなど一度もない。
どうして、ここまで許されて、心だけは手に入れられないのだろう。
「紅茶にするんじゃなかったのか?」
「あー…」
でもコーヒーがいい、りらが口を尖らす。可愛い。どんどん自分ばかりが溺れていく。
柳瀬は身体を起こして台所に向かった。