ビューティフル・ワールド
それから、柳瀬が淹れたコーヒーを二人で飲みながら、マカロンとチョコをつまんで。
甘過ぎる、と顔をしかめた柳瀬の手からりらがばくっとかじりかけのチョコを食べて、そのまま指まで舐めるものだから、
柳瀬はまた欲情して、チョコが残るりらの口を塞ぎ、
互いの舌でドロドロにチョコを溶かす文字通り甘いキスをした。
そのままソファになだれ込んで、また汗だくになりながらセックスをして、りらはシャワー浴びたばかりなのに、と笑い、二人でシャワーを浴びて。
本当に、蜜月のような、信じられないほど満たされた午後を過ごし、
柳瀬が今日そのために来たはずの用件を切り出したのは、すっかり日が暮れて、
いい加減お腹が空いたと近くのビストロに入って向かい合って座ってからだった。
「オーナーが、本当に挨拶をしたいから、日にちを指定してほしいって。すぐじゃなくてもいいから、りらの希望を全面的に飲んで、個展をやりたいって。」
本来こういう話を肉体関係を持ってするのはあり得ないことだが、りらに限っては気にするはずもなかった。
「ああ」
例によってテラス席で、夜風に洗いざらしの髪をなびかせながら、してやったりという顔で彼女は笑う。
「何、改心したの、あの女?」
「…あの個展は、相当ショックだったみたいだ。」
全てを見終えて顔を合わせた時、伊東は何か憑物が落ちたような顔をして、長い間、しばらく何も言わなかった。
「なあ、誤解しないでほしいんだけど、あの人は、目は確かなんだ。ただ若くてきれいな女が嫌いで、男が好きなだけで。」
「わかってるよ。でなきゃメイユールをあそこまでにすることはできないだろ。」
きっと、伊東は口が裂けても言わないだろうが、茅野りらの作品を、見もせずに、いち早く世に出すチャンスを逃したことは、仕事人生最大のミスだったと、自覚している。