ビューティフル・ワールド
「セックスしただけだよ。よくあることだろ…」
「そんな、よくいる、低俗な女なんですか、茅野さんは!」
「そりゃそうだろ。」
りらは初めて大久保の顔をまともに見た。
「お前は私をなんだと思ってるんだ。良い男に襲われたらやるだろ。」
なるほど抵抗しなかったわけだ。柳瀬は二人に背を向けたまま、また苦笑してしまう。
「襲ったんですか!」
「襲ったよ。」
ティースプーンだろうか、小ぶりのスプーンを見つけて手に取りながら、事も無げに柳瀬は答える。
「柳瀬さん、なんてことを…」
大久保が頭を抱えた。かわいそうな男だ。
想いを募らせながら、彼女の言うことを聞くことしか彼にはできることがない。
俺は、と柳瀬は強く思う。俺は、側にいるだけでいいなどという戯言は言わない。時間ばかりかけて下僕になるなど正気の沙汰ではない。
「なんでそんなことするんですか。そこにいい女がいたから? 正気の沙汰じゃない…」
はからずも相手に抱いた思いをそのまま言われて、柳瀬は笑ってしまった。二人の男は、あまりにも性質が違いすぎる。
「違うよ。好きだからだよ。恋人になりたいんだ。」
「そうなのか?」
長い脚を折りながら再びソファに座りながらさらりと言うと、りらが意外そうに目を上げた。
「言っただろ?好きだって。」
「言ったけど」
「そんなこと、僕だって…!」
「好きでもない女に迫るほど、女に困ってないよ、俺は。」
そうか、と納得したようにりらは頷いた。
「今の感じだと、恋人っていうより、愛人って感じだな。」
からからと笑って、メロン味のかき氷をうまそうに食べ始めた。