ビューティフル・ワールド
残酷な女だ。と、また柳瀬はその姿を見てつくづく思う。誰の気持ちを認識しても、りらには人と向き合うという概念がない。恋人になりたいと言われても、そうかとしか言うことがない。
心を奪わなければ。どうやって。柳瀬はちりちりと焼かれるような焦燥感を覚えるが、口元には淡い微笑を浮かべたままかき氷を食べ始めた。
大久保は明らかに苛々しながら、キッチンに戻る。
大久保には柳瀬のような男はいつも余裕たっぷりで、りらの恋人になることだって難しくないことだと思えるのだ。氷をしまう音が例に漏れずうるさい。わざとだ。
りらはキッチンに首を伸ばした。
「何怒ってるんだ、大久保。お前は食べないのか? かき氷。」
「何も怒ってないですよ! 失望しただけです。二人分も作ったらもう疲れましたよ!」
「こんな男に何を期待してたんだ。見てくれのいいだけの男だぞ。」
「おい、俺にだって他にもセールスポイントくらいあるぞ。」
「僕が失望したのは柳瀬さんにじゃないです! 柳瀬さんはそこらじゅうの女を口説いて回ってるでしょうから今更驚いたりしませんよ!」
「心外だな…衝撃的な冤罪だよ。それは完全にあなたの想像じゃないか。」
「僕は茅野さんに失望したんですよ!」
「私に? なんで。」
りらは目を丸くしている。
「簡単にそんな男と寝るような女だと思ってませんでしたよ!」
そんな思いをぶつけたってりらには何も響かない。馬鹿な奴だ。柳瀬は口元を歪めて声を出さずに笑う。
「お前、私が誰とも寝ない女神みたいな女だとでも思ってたのか。」
「そうじゃなくて、僕は…!」