ビューティフル・ワールド

冷凍庫を閉めて、大久保は振り返った。りらの顔を見て、あまりに涼しい顔をしているので、思わず言葉に詰まる。
目を丸くしたままりらが続きを待っているので、大久保はたどたどしく続けた。

「あなたのような人は、自分にたった一人の人を、自分の目で見つけて、その人だけを求めて愛し合うことが大事だと、思うんです!」

そしてそのたった一人が自分であると思っているわけだ。いつか、りらがその目で見つけてくれると信じて。
誰よりも自分がりらを愛しているから、誰よりも自分がりらに相応しいはずだと思っている。

「馬鹿だな、私はそんな一途な愛を探し回るほど暇じゃないね。そのうちそのへんに転がってたら拾うさ。なかったらそれまでだ。見つかるまで私はセックスしちゃいけないのか? 立派な大人なのに。」

言ってから、いや、今日は暇だな、こうしてかき氷食ってるし、と一人で笑っている。
柳瀬はわずかに自分の心の何処かが痛むのを感じる。気づかないふりをした。

「お前のどこが立派な大人なんだ?」
「またあなたはお前とか、茅野さんにいつの間にそんな口を聞くようになったんですか!一回寝たからって自分のものになったと思わないで下さいよ!」
「思ってないよ。」
「思ってないのか?」

りらはまた意外そうに柳瀬を見る。そっちがさっき付き合ってないって言ったんじゃないか。
柳瀬は舌打ちしそうになるのを堪えた。ここで振り回されてはいけない。
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