ビューティフル・ワールド
「思って良いのか? 此処にある俺の愛を拾ってくれるとでも?」
「お前に愛なんかあるのか」
りらが鼻で笑う。どうして、この女は、この両目から愛を見いだしてくれないのだろう。こんなに熱い目で、いつもいつも見つめているというのに、どうしてこの女は、いつも涼しげなのだろう。
「愛してるよ…」
「僕の目の前で口説かないで下さいよ!」
縋るような思いで零した言葉が終わる前に大久保の声が被さった。
「うるさいな。」
思わず凄むような声が漏れてしまった。
この際だ、と大久保を射貫くような眼で睨んだ。
「あなたは俺をプレイボーイだとか女たらしだとか思っているみたいだけど、俺は彼女を愛してるしあなたみたいにいつまでもただじっと彼女に愛されることを待っていたりしない。愛されるための努力を続けるよ。邪魔しないでくれ。」
すぐに反論しよう口を開き、しかし大久保は絶句した。
「お前努力してるのか。」
押し黙った大久保の顔色を心配するそぶりもなく、呆れたようにりらが言った。
「してるだろ。」
「努力なんか…僕だって…こんなに…」
こんなに、尽くしているのに。
こんな男に横からかっさらわれるのか。歯を食いしばる大久保の悔しさが、聞こえてくるようだった。
大久保はくるりと背を向けると、自分の鞄を取って、リビングを出ていった。
「帰ります。」
だからあなたはダメなんだ、と柳瀬はその背に語りかけたくなる。自分のショックにばかり気を取られて、愛する女を今まさに口説いている男と二人きりにしようとしている。