ビューティフル・ワールド
「ギャラリーOで、茅野さんの作品が展示されてるみたいだけど。」
オーナーが柳瀬にそう話しかけたのは、それから二週間ほど経ってからだった。
「アナタ、何か知ってる?」
寝耳に水だ。
「いえ…」
「時期も変だし、突然よ。ギャラリーOって、こないだの大久保さんのところでしょ? 知り合いが見てきたみたいだけど、"デッサン展"とか言って、作品に統一性もないし、未完成のものばかりで、茅野りらがそんなことするわけないって言ってたわ。何かおかしいわよ。」
嫌な予感がした。
こんな時に限って、柳瀬はアポイントメントがあり、ギャラリーを出られなかった。
あれから、りらには会っていない。
冷却期間を置いた方がいいと思ったのだ。
柳瀬は繋がらないことを覚悟して、りらの番号に電話をかけてみた。
電話ををするのは初めてだった。りらはスマホチェックとは無縁だったからだ。
しかし、電話は繋がった。
「はい。」
「柳瀬だけど。悪い、あんまり時間がないんだ。聞きたいことがあって。」
電話には出たものの、りらは黙っている。
「大久保さんのところで、作品が出されてるみたいだけど、お前、大久保さんに渡したの?」
実際は数秒だったのかもしれない。
だが柳瀬にはとても長く感じられる沈黙だった。りらが黙り込むなんてことは、今まで一度もなかったのだ。
だが結局、りらは答えた。
短く、一言。
「盗まれた。」
と、言ったのだ。