ビューティフル・ワールド

また、その話。
なんだか全てが煩わしかった。
りらは大きく息を吐いた。

「わからない。でもそうなると思う。」
「わからないって何ですか。どうして付き合うんですか。」
「考えろって言われてるから。でも断る理由はないし。少なくとも私は柳瀬が好きだし。」

好き、という言葉を聞いて、大久保は唇を噛んだ。

「僕じゃ、ダメなんですか? 僕のことは好きじゃないんですか?」
「……」

りらは黙ってしまった。
好きか、好きじゃないか。
どちらか絶対に選べと言われたら、まあ好きだ、と答えることができる。
だが、今大久保が求めているのはそういうことではないと、さすがのりらでもわかっていた。

先ほど、柳瀬に言われたことが、柳瀬が思う以上に影響していた。
昨日までの彼女だったら、簡単に、好きだよ、と口を滑らすか、くだらないこと言うな、と流すか、どちらかだっただろう。

今、好きだと言ってはいけないんだろうな。
と、りらはぼんやり思った。

彼女は今まで、恋愛らしい恋愛をしてきたことがなかったのだ。いや、今思い返すと、自分に恋い焦がれ、思いつめていた男もいたのだろう。けれど、男たちは皆、去っていった。
りらにとっては、恋愛はふいに訪れ時折楽しむ、軽いスパイスに過ぎなかった。

「大久保、悪いけど、お前のことはそういうふうには考えられない。」
「どうして…!」
「そういうふうに見たことがないんだ。」
「じゃあ、今からそういう目で見てください。僕を見てください!」

きみは、僕を全然見てくれない。

そう言って別れを告げた男が居たことを思い出した。

なるほど、こういうことだったのだな。
りらは今の今まで忘れていた男に謝りたくなった。

柳瀬が、いなければ。

りらはふと思う。
柳瀬がいなければ、こうして懇願されたら、大久保と付き合っていたかもしれないな、と。
今まで付き合ってきた男たちと同じように。
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