ビューティフル・ワールド

けれど、柳瀬はそんなふうな付き合いでは納得しない。正面からそう主張された。柳瀬が望むようにりらが心を動かすまで、彼は彼女の元を去らないだろう。
りらはそれを不快だとは感じていなかった。

「ごめん。」

大久保が膝を折って崩れ込んだ。
嗚咽が漏れている。

「僕と柳瀬さんは、何が違うんですか。僕が…僕が、茅野さんに見向きもしてもらえなくて、柳瀬さんがあなたと付き合えるのは、どうしてなんですか。あの人が、すごく美しいからですか。」

りらを見ることもできず、胸を掻きむしるようにして、大久保が床に向かって泣きながら叫んだ。

「柳瀬は…」

そう、柳瀬は、美しい。
確かに、あの美しさを目の前から失うのは惜しい。それはどうしようもない事実だった。
その美しさは初めて会った瞬間からりらを感動させた。
その美しい男が日々に居座るようになって、りらはとても満足だった。
セックスだって素晴らしかった。
付き合ってと言われて、断る理由が見当たらない。
だけどそうじゃない、と柳瀬は言うのだ。

柳瀬は、何かを、欲しがっている。
それを差し出そうと、りらは思う。

「たぶん…お前と付き合ったら、あげられないんだ。」
「何を?」
「…何かを。」

何かを。
どうして、それを差し出すのが柳瀬でなくてはならないのか。どうして大久保ではいけないのか。

それを説明することは難しい。
美しさに魅了されたからと言われれば、それまでかもしれない。

りらが、美しいものに傅く性質を持っているのは、疑いようもない。そういう意味で、柳瀬は初めから誰より有利だった。
けれど、柳瀬と過ごした時間に、失いたくない何かがあることを、りらは今、はっきりと感じた。

大久保との時間に、それはなかった。
それが、柳瀬と大久保の、りらにとって価値ある者になる為の、努力の質の違いだった。
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