ビューティフル・ワールド

「…お前なんか、いつも間違いだらけだよ。」

柳瀬がため息混じりに身も蓋もないことを言うので、りらは笑い声をあげた。だから、柳瀬は良い。

「あいつはその犠牲者だ。気の毒になあ。原因があれば結果があるだろ。私の間違いの結果が、これだよ。当然のことだ。」

当然、あれから大久保は一度もこの家を訪れていないが、別段困ったことなどなく、滞りなく日常は続いている。大久保が通い詰めていた頃に比べて、部屋が散らかっているとか、りらがお腹を空かせているとか、そんなことはなかった。
気の毒になあ、という自分の言葉の意味を、この女はちゃんとわかっているのだろうか。

「気が、済んだと思うか? あの人が。」
「え?」
「今頃、罪悪感で死にそうになってると思わないか。」
「……」

りらは大きな息を吐き、天井を仰いだ。

そんなものが欲しいなら、くれてやろうと言うのに。
何故、盗んだ奴のことをそこまで気遣わなければならないのか。何故、取り返して"あげなければ"ならないのか。
だから嫌なのだ。人間は、何もかもが面倒くさい。

「わかったよ…」
「いいよ、俺が行く。」

柳瀬が用意していた台詞を言うと、りらは上目遣いに柳瀬を見た。

「お前、私を甘やかしてないか。」
「今頃気づいたか。」

柳瀬は笑った。

「お前を手に負える男なんか、俺くらいしかいないと思うぞ。」

そうなんだろうな、とりらが疲れたように呟いた。

「甘えとけ。」

そう言うと、りらの頭を引き寄せて額にキスをして、身を翻し、柳瀬は部屋を出ていった。
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