ビューティフル・ワールド

「見たいだろ。」

大久保は今度こそ、涙を零して、
下を向いた。

「貴方が嫌いでしたよ。」

くぐもった声に柳瀬は笑った。

「そんな、わざわざ言わなくても。」
「貴方は全て持っていた。美しさも地位も能力も、あの人に愛されるための資格を、全て。僕より後に現れたくせに、あの人の心を簡単に攫って、僕はなす術が無かった。」
「それは違うよ。」

大久保が顔を上げた。涙が光る眼で柳瀬を見た。

「そう、違う。僕は初めから違った。こんなことをしたって、あの人に見てもらえるわけがないのに、もう僕にはこれしかできなかった。」

僕は、赦してさえ、もらえない。

その声は悲痛で、消え入りそうで。それでも、続いた。

「あの人は、怒りもしないから、僕のしたことなんか、罪にさえしてもらえない。」

柳瀬は、そんなことないよ、と、言おうとして。
気休めも、侮辱も、彼には与えまいと思い、口を閉ざした。
だけど、りらは、彼女なりに、大久保を赦そうとしている。彼が赦されたがっているから。
だけどそれは柳瀬が言うべきことではない。

どんなに、惨めか。
それは大久保だけが知っていれば良い。
それは柳瀬には関係のないことだ。

そうやって黙る柳瀬を見て、大久保は、勝者の余裕だ、と嘲るように思った。
同じ女を愛しても、彼らが交わることはない。

けれど結局、りらの絵だけが彼らを同じ場所へ連れて行く。
彼らはただそれを待つ。
いつまでも、彼女の絵を、待っている。


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