ビューティフル・ワールド
「いいだろ、現代アーティストっぽくてさ。どうせなら色違いで多色展開にして…」
ぶつぶつ呟いているが、ようするにその絵に納得がいっていないらしい。
となると、この絵もまたそのへんに放られる日が来るのかもしれない。
盗みたくなる気持ちもわからないではなかった。
少なくとも大久保が盗んだ絵は、完成はされていなくても、こんなふうにりらの感性の核ともいえるような、きらめきの断片ばかりだった。
「…合鍵、返すって。」
柳瀬はりらの目の前にそれを掲げてやった。
りらはそれをちらりと見やると、肩をすくめた。
「お前にやるよ。」
「嫌な女だなあ。」
柳瀬が心底から言うと、りらはぶすっとした顔になって手を伸ばした。
「いらないならいい。」
その手を避けて柳瀬は鍵を引っ込める。
「いるなら素直に受け取ればいいんだ。」
「俺はあの人みたいにお前の世話焼き人にはならないぞ。」
「そんなことわかってるよ。」
りらが思いもかけないことを言われたというように目を丸くする。
「恋人は合鍵を持ちたいものかと思っただけだよ。」
「他の男のお下がりの?」
「細かい男だな。新しく作ったって同じ鍵ができるのに。」
「まあ物に罪は無い。俺はむしろ、その不用心さのほうが気にかかるな。いっそ鍵自体取り替えたほうがいいと思うが。」
「好きにしろ。」
「お前の家だろ?」
「それならお前の家でもある。」