ビューティフル・ワールド
今度は柳瀬が目を丸くする番だった。
「何だよ。お前が考えろって言ったんだ。」
りらが心外そうに言った。
これは、また。
思ったより、甘い日々が待っているのかもしれない。柳瀬はそんなことを思う。
「お前が欲しいものなんかわからない。私の全部をやるから、お前が選べ。いらないものは捨てろ。」
「…何、勘の悪いサンタみたいなこと言ってんだ。季節外れな…」
柳瀬は柄にもなく感動してしまって、言葉に詰まる。
それを悟られないように平静を装い、数々の女を悩殺してきた美麗な笑顔を作って言った。
「お前なんか、俺無しには生きていけないように作り変えてやるから、覚悟しろよ。」
殺し文句にも、りらはいつものように鼻で笑ってから、しかしふっと真面目な顔になって柳瀬を見た。
「そうなるといいなあ。」
それは、夢を見るような言い方だった。
「そうしてくれよ、ぜひ。」
まだまだ、りらの眼には世界の絵しか、映ってはいない。
けれど、彼女は少し変わった。彼女は今では憧れている、人の心に触れ、触れられ、生きていく優しい日々に。
「…絵は、好きにしていいって、大久保に伝えろ。欲しければやる。燃やしたって良い。」
大久保はきっと燃やしも捨てもしないだろう。
自分が盗んだそれらを直視できるようになった時、りらに返すだろう。
柳瀬が頷いたのを見て、肩の荷が下りたかのように、りらは、うーん、と伸びをした。
「あーお腹空いた。なんか食べに行こう。柳瀬は? 今日は泊まるのか?」