ビューティフル・ワールド
そんなことは未だかつてしたことがないが、りらの口ぶりはもう何度もそういう日があったかのようだった。
「いや、今日は帰るよ。でもとりあえず夕飯は食べよう。」
「そういえば、お前はどこに住んでるんだ?」
「横浜。…お前俺の情報全然ないだろ。知らない奴とよく付き合えるな。」
「お前が言い出したんだろう。言っとくけど、私は引っ越さないからな。一緒に暮らしたいならそっちが越してこい。」
「まあ、そうしてもいいけど。」
柳瀬はため息をついた。
「とりあえず、恋人なら、その柳瀬っていうの、もうやめろよ。」
途端、りらが着替えるために寝室に向かいかけていた足をピタッと止め、柳瀬を振り返った。
眉をひそめ、たっぷり十秒はまじまじと柳瀬を見つめてから、
「柳瀬、…下の名前、なんだっけ?」
「………」
柳瀬和希は問答無用でそのまま彼女を寝室に押し込み、だって、とか知らん、とか言う彼女の唇を塞ぎ、ベッドに押し倒した。
思い出すまで許さない、と耳元で低く囁き、めちゃくちゃに責め立て、その身体を抱いた。
腰が立たなくなったりらに、腹が減って死にそうだ、と文句を浴びせられたのは、言うまでもない。