ビューティフル・ワールド


わりとうまいワインを出すんだ、とりらが柳瀬を連れて行ったのは、スペインバル風のこぢんまりとした店だった。
今日は暖かいからテラスにしようとりらが言って、二人は裏路地に面したテラス席に向かい合って座った。

「じゃ、改めて、初めまして。」

運ばれてきたデキャンタの赤ワインを二つのグラスに柳瀬が注ぎ、二人はグラスを合わせた。

「会うのは、初めてだけど」

十五分ほど待って、髪をきれいなシニヨンに結い直し、軽く化粧をしてシンプルなネイビーのワンピースという出で立ちで彼女が部屋から出てきてから、
柳瀬は敬語を捨てていた。

「大学は同じなんだ。俺は貴女を知ってたよ。」
「ああ、そうなの?」

傾けたグラスを口に運ぶ手を止め、りらは長い睫毛を瞬かせた。
写真でもなかなか美人だな、とは思っていた。
だがそんなことよりも、仕草のひとつひとつ、表情のひとつひとつに、余計な気張りが無く、
およそ見栄というものは一切持ち合わせていないかのような振る舞いが、
顔の造作よりも遥かに彼女を魅力的に見せていた。

「俺が四年の時、貴女が一年だった。」
「なんだ、先輩か。専攻は?」
「油画。」
「は? 同じ? 会ったことないよね。」
「バイトに明け暮れてて行ってなかったからな。」
「あぁ…」

何かに思い当たったように、りらが頷いた。

「そういえば聞いたことあったな。全然来ないから見れないけど、モデルやってる超絶美形の先輩が居るって。それが先輩?」
「そうだけど、先輩は定着させるなよ。俺はりらって呼んでいいの?」
「どうぞお好きに、先輩。」
「やめろって。」

笑いながら、りらが先輩先輩、とふざける。
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