奴隷少女と我儘王子
 少年と私が地面に書いた単語を見てから、私に優しく語り掛ける。
「待って! ごめん、驚かせてしまったね。君は彼に文字を教わっているのかい?」
 私を『呪いの子』と知らないためか、知識商人さんは私に嫌悪感を見せることなく気安く話しかけてくれる。
「は、はい。勝手なことをしてすみません。けれど、私には読みたい本があるんです。母が4歳の誕生日にくれた絵本を自分の力で読みたいんです。すみません」
 目を見る事も出来ずに縮こまり、びくびくしながらも早口で言う。こんなことを知識商人さんが知っても仕方ないことなのに。
「俺が勝手に教えてるんだ、この子は悪くないよ!」
 少年も慌てて、私を庇ってくれる。
「――大丈夫、落ち着いて。僕は怒っていないよ」
 知識商人さんは私たちを落ち着かせるために、ごく自然にポンポンと優しく頭を撫でてくれた。もう随分と父にも母にもされていなかった行為に、思わず肩の力が抜ける。
「良ければ僕が文字を教えてあげるよ。彼と一緒に勉強しよう?」
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