奴隷少女と我儘王子
 思わぬ提案に顔を上げて知識商人さんを見るが、冗談を言っている雰囲気ではない。こんなに嬉しいことはないと思うけれど、私は提案を受ける為に必要なものを何も持っていない。
「すみません。凄く嬉しいですけど、私にはお金も宿も、対価に差し出せるものが何もありません」
「ふふ、君は難しい言葉を沢山知っているね。対価は必要無いよ」
 対価が必要無い? それはあり得ない。この人は知識商人だ。それがどんな職か、詳しいことは何も知らないけれど、文字も立派な知識。この村の大人も文字を読める人は少ない。読める人はその知識を利用して、村人から食糧を分けてもらったりしている。村長もその筆頭だ。
「商人さんなのに、ですか?」
「知識商人とはとても特殊なんだ。その中でも特に僕はね。だから気にしないでいいんだよ」
「でしたら、どうか私に文字を教えて下さい」
「ああ、よろしく」
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