奴隷少女と我儘王子
家に帰ると、父はまだ帰っていないようで、母がテーブルに座っていた。
「今日はスープを作ったのよ。鍋にあるから、食べなさい」
「はい、ありがとうございます。お母さん」
先生がこの村に来てから、数ヶ月が経った。先生は変わらず指導してくれて、今では隣国であるアルマン大国の言語である神聖語も大半は理解出来るようになっている。
「お母さん、今日はうさぎを狩ることが出来ました。台所に置いてあります」
狩りなんて出来ないけど、罠を仕掛けることは出来るから、偶に肉を持って帰れる日がある。
「そう。ならアンタはそれ食べたら、寝なさい」
「はい」
今日のお母さんは随分機嫌がいい様子で、珍しく私に声を掛け、食事を用意してくれた。
スープには、村で育てている豆が入っている。本来は他にも具材が入っているのだが、今回は豆のみだ。
スプーンで掬ってひと口含むと、微かに豆の風味がする。母の料理を食べるのも1ヶ月ぶりだ。懐かしい味がする。
スープはあっという間に食べ終わったので、自分の部屋に向かう。部屋といっても薄く、硬い毛布が1枚あるだけの寂しい部屋なのだが。
 狩って来たうさぎは、お母さんとお父さんの今晩の食事になるだろう。
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