好きと言えなくて
田城ちひろマネージャーも一緒の撮影だなんて、かなり気が重い。


マネージャーなら、マネージャー業に徹してよ。


恋人同士が春の装いをしてお出かけの撮影らしいけど。


俺が撮影の内容を変えてもらったからと、田城ちひろが言った。


本当は私一人でだったはず、勝手に変えないで。


でも、決して口に出して言えません。


本当は少し安心したんだ。


まだ、一人では心細いし、不安な事ばかりだから。


多分田城ちひろは私の気持ちが分かっていたんだと思う。


不安で眠れないから一緒にいてくれた。


でも、素直にありがとうって言えない。


「綾華さんは肌が本当に綺麗だから、化粧ののりがいいわね。」


今まで化粧なんてしたことがなかった。


鏡に写る自分はいつも思う事だけど、別人みたいで、本当の私なのかなって。


この仕事を続けて行ける、自信がない。


ここに写る自分の姿は偽りなのかも知れないと思ってしまう。


「本当に綺麗ですね。」


メイクさんのことばにありがとうと頭を下げた。


「綾華は化粧しない方がずっと可愛いけどな。」


え、私の後ろに田城ちひろが立っていた。


今のことばは智尋兄が言ったんだね。


きっとそうだ。


そう思いたい。


いつか田城ちひろじゃなくて、智尋兄と色んな事を話したいです。


それまで頑張りますか。
















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