好きと言えなくて

田城ちひろの過去

この雑誌の発売は来年の春なので、映画公開日と重なるらしい。


さすが抜かりがないと田城ちひろは感心していた。


その頃私はどうしているのだろうか。


帰る場所はないから、出来る事なら咲良母さんが経営してる居酒屋で働きたいと思う。


女優の仕事は私にはむいていない。


疲れてストレスが溜まりまくりだ。


普通の休みがほしい。


東京観光もしてないし。


色々な所へ行ってみたいな。


休憩時間にそんな事を考えてると、喜村マネージャーが部屋に入って来た。


「綾華さん大変です。監督が話の内容を変えてしまい、綾華さんが二役することになりました。」


二役って、何?


主人公の彼の恋人が病死して、瓜二つの女性が現れて、又恋に落ちると言う話のはず。


取り合えず監督の元へいくと、田城ちひろがいた。


「綾華は素人なんです。二役なんて無理ですよ。」


「大丈夫だ、綾華なら必ず演じられるさ。」


監督のことばは嬉しいけど、今の演技に必死で他の事まで頭に入りそうもない。


監督が近づいてきて、肩を叩く。


「綾華なら必ずやれるからな。」


監督のその自信はどこから来るのですか。


本人が無理だと言っても、無視ですか。


大きなため息を落とした。


出来ないと言えばいいのだろうけど、勝ち気の私にはそれが出来ない。


監督とはまだ浅い付き合いだけど、監督は私の性格を見抜いている。


もう絶対に負けだ。









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