好きと言えなくて
結局田城ちひろまで一緒にいくことになってしまった。


咲良母さんはなんだか嬉しそうだから、まぁいいかな。


咲良母さんの隣を歩こうとすると、綾華はこっちだと田城ちひろに手を引かれた。


田城ちひろはキャプにサングラス、マスクまでしてかなり怪しい人になってるし。


田城ちひろは芸能人だから仕方ないでけど、よけいに目立ってると思います。


料亭は始めてで、こんなお店はテレビでしか見たことがない。


田城ちひろは怪しい姿のままだし。


咲良母さんにそのおかしな物取りなさいと言われ、しふしぶ全てを取った。


目の前に現れた人を見て、田城ちひろの顔色が変わる。


私たちの前にいるのはスレンダーな美人さんだった。


「久しぶりね。智尋。」


「え、智尋の知り合いなの。」


嫌な汗が流れた。


もしかして、もしか。


咲良母さんは何も知らないのだろうか。


この人は智尋さんの好きだった人に違いないと思った。


「今主人が来ますから、お待ちください。」


田城ちひろの震える手を握った。


田城ちひろは私の手を振り払おうとしない。

《智尋兄、大丈夫だからね。》


彼女が結婚まで考えた女性なのか。


智尋を裏切った人なのか。


彼女の旦那様は本当に素敵な人だったけど、咲良母さんと仕事の話をしている間、私は智尋兄の手を握ったまま俯いていた。


智尋兄の手を握ったままトイレに行きたいと席を立った。










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