好きと言えなくて
咲良母さんは家族が揃った事を本当に喜んでくれた。


智尋兄さんと会うのも二年ぶりらしい。


どうして家に帰らなかったのだろうか。


聞きたくても聞けないでいた。


腹が減ったから飯を作れと私に言うけど、咲良母さんに頼めばよいことでしょ。


「母さんは不味いものしか作れないから。」


え、でも一緒に暮らしてた時咲良母さんが食事を作ってたよね。


ごめんね、あの時は全て買ったお惣菜だったから、美味しかったのよね。


嘘、信じられない。


「おい、早く作れ。」


何が好きなのかな。


台所に行き、冷蔵庫をのぞいてあったもので簡単に作ってみた。


「酢豚は智尋の大好物なのよ。」


何となくの記憶だけど、酢豚が好きだったと思ったから。


智尋兄さんは上手いとおかわりをしてくれて、良かった。


「明日の朝は6時に出るから早く寝ろ。5時半に起こして。」


え、起こすとこからですか。


アラームかけて自分で起きて下さい。


「智尋は寝起きがものすごく悪いから、綾華ちゃん気をつけてね。」


なら、咲良母さん起こしてよ。


なんて言えるはずもなくて。


私は付き人になると返事した覚えがないのに。

返事もさせない状態で、了解した事になってしまったのか。

咲良母さんはこの状態を楽しんでるようにも感じるし。


「綾華ちゃんなら、智尋を任せられるし、智尋を変えてくれると思うから。」


智尋兄さんを変えられるとは。


あの優しかった智尋兄さんはどう変わってしまったのか。


まだ全然分からないけど、近くにいれば分かるのかも知れない。


そう思うと少しだけ勇気がわいた。


私がここに来た意味があるのかも知れないと思えたから。




















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