本日ヒーロー不在につき
やはり彼は毒を吐きながら、すでに2本目のビールを開けている。

なんだか、ちょっとだけ酔いが醒めてきた。私はよっこらしょと、ソファーに上がって横たわる。



「そのまま寝んなよ、笹原」

「寝ないよー。はあ、どこにいるんだろ、私の王子様……」

「忘れろとか言って、自分からまた使ってんじゃん」



ふ、と、三郷くんが笑う。

彼の笑顔は貴重だ。少なくとも私とふたりのときは、いつも無愛想だから。



「なんだっけ、笹原が大学んときハマってた乙女ゲーム。王子様のキスがなんちゃら」

「よく覚えてるねそんなの……そーだよ。私はあの中に出てくる綾小路さまがタイプなんだよ……!」

「あの寒々しいセリフばっか吐いてたメインキャラか」



綾小路さまを愚弄するな馬鹿者!

イケメンでやさしくて私だけを見てくれて、あの人こそ私のヒーローだったんだよ……!



「あんなやつ、現実にいるわけないだろ。ゲームの中のヒーローなんて、ただの夢物語」

「わかってるけどさー」



くちびるをとがらせて、ごろりと私は仰向けになった。

だけどどうしても、探してしまう。
理想ぴったりの、私だけの王子様。私だけのヒーロー。

今日まで出会ってないけれど、きっと、いつか、どこかに。



「………」



でも、そんな人にいつか出会ったとして……たぶん私は、今までみたいに、必死で取り繕った自分でしかアタックなんてできないんだ。

もはや、自分でもどうにもできない癖。
そう考えるといくら友達といえども、こんなに自然体でいられる三郷くんみたいな異性って貴重なのかも。
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