名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
ありすぎな課題を終わらせて、数学の小テストに備えて予習して、教科書を確認したり、はさみやのりを鞄に入れたり明日の用意をしていると、お風呂が沸いた。


ピピピピ、と短い機械音が何度も鳴っている。


何やら始めたお母さんに声をかけてお風呂に入る。なんだろ。仕事かな。


今日は柚子の入浴剤の日らしい。お湯が一面橙色で、いい匂いがする。


柚子はいいよね。臭くないし、色も綺麗だし。


お風呂上がりの乾いた喉に麦茶を流し込んで、両親に声をかけた。


「そろそろ寝るね」

「はーい。おやすみ、みいちゃん」

「おやすみ、美里」

「…………おやすみなさい」


呼び名はわたしを縛る。


懐かしくて、温かくて、残酷だ。


明かりを調節してベッドに潜り込んで、布団を頭までかぶった。


真っ暗にはしないようにしているから、怖くない。


ほてる体を冷えた布団が冷ましていく。


夢を見ないといいな、と願いながら、目を閉じた。


夢を見るときは決まって同じ夢を見るから。


夢を見ないといい。


誰の夢を見るかなんて、眠る前から分かっているから。
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