名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
わたしは今までずっと、怖がりだった。

ずっとずっと臆病で逃げ腰で、怯えてばかりいた。


……わたしは夜、寝つく前に毎晩のように、明日こそはと考える。


帰り道、オレンジ色の横顔を見つめて、今言わなくちゃ、と思う。


日が変わる度、年が明ける度、場所を改める度、今度こそは、と心に誓い続けている。


三度目までは、わたしの決心はきりりと固くて、間違いなくどこまでも真剣で本気だった。


五度目に、ほんの少し心のどこかで逃げ道を探し始めた自分を、見ないふりをした。


丸一年目の誓いに初めから少なからず諦念が混じっていると知ったとき、戦慄した。


そして、これが三年目の誓いになる。


誓いは代償こそなくてもちゃんと誓いで、決して適当に言っているのでも、叶ったらいいな、くらいの曖昧な気持ちでもない。

それでも三年目になった。なってしまった。


必死に固めた決心を、繰り返す放課後が次第に脆くする。

きつく握りしめた拳を、遠くからしか見えない後ろ姿が儚くする。

振り向かないオレンジ色の横顔が、わたしの一番好きなそうちゃんが、苦しいほどのひたむきさを連れてきて、わたしを占領する。


そうちゃんを前にすると、どんな言葉もどこかに散って消え果てて、うまく口にできない。


誓いはいつでも強く、それでいていつでもほんの少しだけ、淡かった。


……慣れと諦めは、とても怖い。怯えはもっと恐ろしい。


何も言えないまま何も変わらないことを、何も気にしなくなってしまうのは、わたしのこの抱き続けてきた恋心にとって、一番残酷なことだと思うから。


今だ。

今度こそ。

明日こそは。

今年こそは。


——そんなことばかり。


ああ。


ああ。


なんて。なんて。……なんて。


…………わたしの、馬鹿。
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