名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「……は、っ……」


浅くて苦しい溜め息を、そうっと引き結んだ唇の隙間からこぼれさせる。


大丈夫。大丈夫。


ぎゅうっと固く握りしめた両手を額に押しつけて、苦さを無理矢理飲み込んだ。


……だいじょうぶ。


連絡をした。

声をかけた。他愛ない話をした。

佐藤くんと、呼べた。


まだちゃんと、そうちゃんの一緒に帰る人でいたいと願えている。


時間がただ流れてしまうときの、束の間の幸せと寂しさを、知っている。


後から後から胸に迫る虚しさと後悔を、知っている。


もう何年も何年も、ずっと前から思い知っている。


……だから、大丈夫。明日は絶対に逃げない。


今度こそはなんて、自分を苦しめるだけの言い訳なんか、未来のわたしに残していかない。


手をつなぎたいと望むのが、幼なじみだからだと思ってくれてもいい。

もしくは、わたしが恋しているからだと思ってくれてもいい。


理由はなんでもいい。


そうちゃん。


もしちゃんと言えたら、わたしにその手を取らせて欲しい。


お願いだから。ほんとにほんとにお願いだから。


どうか、嫌だと言わないで。
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