名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
願いは叶わなかったらしい。


夢の始まりは横顔だった。


オレンジに染まるそうちゃん。高校生の大人っぽい横顔。


横顔が視界いっぱいに映ったまま、ひたすら無言で帰宅する。


家に着いて、別れて。


そしてきっと暗転する。


……ああ、ほら、暗転した。


中学、一年。


瞬間にそう分かることが、これが夢だと証明していて、少し安心する。


夢で充分。現実になったら苦しいだけだ。


教室に机が並んでいて、みんな真新しい制服を着ている。

女子はセーラー服、男子は学ラン。


クラスメイトの顔ぶれを見ると、一度だけわたしとそうちゃんが同じクラスになった年で、周りから一番からかわれた年だった。


小学校のときとおんなじ、そうちゃん、みいちゃんと呼ぶのは恰好のからかいの的だったから、佐藤さん、佐藤くんで通した。


『佐藤ー』

『『はい』』

『『…………』』


どっと教室が沸く。


たまたまクラスに佐藤さんがわたしたちしかいなくて。

先生たちも気を遣って名前で呼んでくれたんだけど、ふとしたときに佐藤と呼ばれると、どちらが呼ばれたのか分からなくてとりあえず二人とも返事をするから、ときたま「はい」がかぶった。


『ねえ』

『おい』


返事をしないわけにもいかないから仕方がないんだけど、当然、喧嘩勃発。
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