名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
列が少し進んで氷の前まで来た。


五角形の縁をしたグラスに、ごろごろ大きい氷を三つ落とす。


ディスペンサーの底に沈む色とりどりの果物たちはすごく綺麗だ。


全部大ぶりでごろごろ切ってあるんだけど、全部の果物が皮ごと入っていて、皮むかないんだ、とびっくりした。


「わああどっちも美味しそう! どっちにしよう……」

「どっちでもいいだろ」

「どっちでもいいってことはないよ……!」


呆れるそうちゃんに抗議しつつ、並ぶ間中うんうん悩みに悩んで決めたのだけど、さらに呆れた目をしたそうちゃんに「二杯飲めばいいじゃんか」と指摘されて猛烈に恥ずかしくなった。


そ、そうか。それなら確かにどっちでもよかった。


……絶対わたし、二杯飲むし。


「佐藤さんどっちにする?」

「桃の方」

「じゃあ俺、キウイの方にする」

「うん」


自然と交わした会話は完全に周りのそれと同じだったけど、多分そうちゃんに他意はない。


果物特有の甘い香りに嬉しくなりながら、トトトトト、と軽やかに八分目まで注ぐ。


「ありがとう」

「ん」


隣で待っていてくれたそうちゃんを見上げたら、手元で氷が鳴った。
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